『胸』


 それは子供の雪遊びで、ただの戯れの筈だった。
「いた……」
 見たことの無い表情でうずくまる背中に、何時もと違うものを感じて、嫌がる躯を抱き起こした。
 雪玉は胸元を濡らしていた。氷でも入っていたか? 慌てて小屋に戻り
「脱げ! 見せてみろ」舌打ちしながら叫ぶ。
 そして粉雪のような肌に目を奪われた。昔は区別などなかったのに、自分とは明らかに違う曲線を描く輪郭の中に薄紅の花が咲いていた。

指先が触れただけで
「痛い」と涙声になる。
「冷やすか?」
「ぶつけた痛みとは違うようだ……」
「んじゃ分かんねえぞ」
「動かしたり触ったりしなければ何でもないんだが」
「そうか、なら暫くおとなしくしてるのが一番いいかもな」目を合わせず言葉を続けた。
「今日はこのまま寝てろ」俺はやることあるから
そう言って小屋を後にした。


 閉じた瞼に残るのは久しぶりに見た躯。

 何度頭を振っても籠もった熱はなかなか引かなかった。