『髪』
髪紐を解くとこめかみの緊張が緩み、一日が終わると感じる。自分だけの空間で大きく息を吐くと、立ち上る湯気が散っていった。小傷があるようであちこちに沁みる。鍛練中には気が付かなかったが、こんなものを貰うようじゃ俺もまだまだだ。
身体を伸ばして本日の反省を終わらせると湯から出た。石鹸を流し、汗を流し、滴の残るまま部屋へ戻る。多少だらしなくても咎める者はここにはいない。濡れた髪が肩から背中へ張り付く。袢を羽織るのは止めておいた。寒くなる前だから出来ることだ。
面倒だよな。乾かないし、朝は手間喰うし。でも、この髪は俺が俺である主張だ。
それに紐を解いた時は、あいつがあの細い指で梳いてくれる。その感触は悪くない。その時のあいつの満足げな顔もだ。だったら多少の不自由には目を瞑っておくか。
次に梳いてもらうのは何時にするか、明日にでも聞いて。あいつは目を丸くするだろうか?