『爪』
「痛ぅ……」
がたん、と鈍い音の後に小さな呟きが聞こえた。髪をかき上げ視線をやると、目に映ったのは、眉間の皺を深くした翡翠が右の指先を睨む姿だった。
「どうしました?」
「……ちょっと引っ掛けた」
「見せて下さい」
少年は自身に関しては恐ろしく無頓着な事が多い。つと立ち上がり、その手を取った。
「あ〜割れてますね。痛くないですか?」
「何でもねぇよ」
「や! ちょっと待って!」
捲れ上がった箇所を無造作に毟ろうとする動きを慌てて抑えた。
「余計酷くなっちゃう!」
そのままですよ、と釘を刺して急いで自分の机に戻り引き出しを漁る。すぐに現れた掌大のケースを持って移動すると
「た〜いちょ、こっち!」ぽんぽんと長椅子を叩いて微笑んだ。訝しげな顔で、それでも隣に座る上司に
「はい、向こう」と更に指示を出す。
背後から手を伸ばすとさすがに「おい」と言われたが
「爪切りますよ」
と抱きしめたら抵抗が止まった。
――子供じゃねぇ、と呟きが聞こえたけど知らん顔をしたのは内緒――
071201
これは私の初書き日乱 と言うことで大好きな日乱サイト
『revolver』(タカトウリツコ様)
へ奉納させて頂きました。