『腰』



 気が付くと世界が反転していた。
「……何?」
「何じゃねえ。この状況で分かんねえか?」
「えっと、決済書類を届けようとしました」
「おう、俺がここにも有るから待てって言うのを振り切ろうとしてな」
「だって! 何その量!!」
 机の上には小山が出来上がり、そのせいではないが隊首席に在るべき姿は見えなかった。
「止めるなら実力行使でも……って言ったよな」頭の上から低い声が降って来ると、応接の椅子がぎしりと撓んだ。
 あ、
 まずい。
 鼓動が跳ね上がる。
「いいんだな?」
 氷刃の視線に攫われそうになり、とっさに目を瞑った。
「ごめんなさい! よくないです!
 もうサボりません! 全部持って行きます!」


「――嘘くせえ」霊圧が緩み言葉が零れた。
「いい、寄り道されるくらいなら俺が行く」

 別の仕事を指示して隊長は出て行ったが、多分後で怒られる。
 氷刃に射抜かれたあたしは、腰砕けでそこから一歩も動けなくなっていたから。