『お祭り』



――45日前――

「さて皆さん」
 静かな部屋に凛と通る声が響いた。
「今回集まって頂いたのは、他でもありません。我々女性死神協会が実施してきた経済政策の数々。そして」
 僅かに語気が弱まり、一瞬の間が空いた。
「同様の頻度で行われた、会長による限りなく私的な散在。要するに無駄遣いですが、これによる経済的危機は今までに無く深刻な状態です」
「なあに〜? だから今回お茶受けも無いの?」
 軽い調子での問いかけにも、報告の声は硬いままだった。
「そうです。このままでは活動はおろか、定例会の実施も緊縮しなければなりません……」
 思いもかけない事態に、顔を見合わせる者、頭を振る者、眉を顰める者、俯いた者など、様々な反応が見られた。
 無駄遣い、と断じられた本人だけが、「え? なに、何のこと?」と笑顔を崩さず寛いでいたが。

 口にこそ出さないけれど、胸に宿る思いは、

『男性死神協会のようになるのだけはご免だ』

 という点でその場の全員が一致していた。

「……で? 打開策はあるのか?」
「以前も現世での動向を参考に行った施策は、確実な成果を上げました」
「動向、と言いますと」
 現世のイベントは、今や瀞霊廷内でも大半が普通に受け入れられている。永い時を過ごす死神達にとって、目新しい情報は逆らい難い魅力に溢れていたのだ。
「一般には、体育の秋、食欲の秋、文化の秋、などと言われることが多いようです」
「それじゃあピンと来ないんですけど……」
「色々合わせた行事があるようですよ? 体育祭、ぶどう狩り、紅葉狩り、文化祭……要するにお祭り事です」
「あー分かった! この前織姫が言ってたわ! 文化祭でお店やるんだってー!! そんな感じでしょ?」
 乱菊の言葉に皆が一斉に顔を上げた。
「そうです。そしてこれは経済施策ですから、確実に収益を上げなければなりません」

 絶対に人が集まって、お金を払ってくれること……?

「副会長には何か案があるんですね?」
 その問いかけに答えるように、細い眼鏡の縁がきらりと光った。




「はい、これ」
 にこやかに渡された用紙の派手な印刷に、恋次は僅かに眉を寄せた。色の洪水に目がチカチカする。
「……何すかこれ」
「見ての通りよ。 『護廷十三隊ハロウィン特別企画・コスプレ喫茶』開催! ってね」
 賑やかな様子は一目で分かるが、肝心の内容は伝わってこないし、何より読むべき箇所が埋もれていて、どこなのかさっぱり分からない。
 またおかしなことをやりだした、と内心ため息をつくが、なるべく波風を立てぬようにと恋次は言葉を続けた。
「何だって副隊長会議でこんなの配ってんすか?」
「そんなの! 決まってんじゃない。いい機会だと思うのよねー。普段接することのあまり無い人がサービスしてくれんのよ?」
はあ」
「ここ書いてあるでしょ? 『三席、五席は当たり前! 上位席官がお迎えします』って」
 そんなのいつの間に、と言う問い掛けは綺麗に黙殺され、話は一層熱を帯びた。
「たまには上下の枠を取っ払っての交流も必要よ? で、コスプレだから普段とは違う格好だし〜とっつきやすいと思うのよね」
「そう……ですかねえ」
 当たり障りのない返答を聞いて、乱菊がにやりと微笑んだ。
「じゃ決まりね! 衣装はこっちで用意するから!」
「はぁ? 何が決まりですか!?」
「今言ったじゃない、コスプレ喫茶で給仕って! よ、ろ、し、く、ね〜」
 何で、俺が、との訴えに、今までと打って変わった佳人の冷ややかな視線が恋次に突き刺さる。
「……あんた、朽木隊長がこれ乗ってくれると思う?」
 即座に不機嫌な横顔が頭に浮かび、恋次は思いきり頭を振った。
 そのまま、脳内で千本桜が散りそうな恐ろしさが瞬時に背中を駆け抜ける。
「だからあんたなの。分かった? 頼むわよ」


 強引に参加署名を書かされ、控えと、チラシを握り締めた恋次が冷静さを取り戻したのは、副隊長会議が終わってから、既に一時間程が経ってからだった。




――30日前――

「よう、コスプレ副隊長」
 肩を叩かれ、恋次は思い切り眉を顰めて声の主を睨んだ。
「……変な呼び方、止めて下さいよ」
「だってコレ、出るんだろ? 暇見て応援に行ってやるからよ」
「あんたもやるんだろーが、九番隊副隊長殿!」
 にやにやと笑う檜佐木の手は、例の色の洪水に、輪をかけてくどくなったチラシをひらひらとはためかせていた。見たことの無い格好の自分をそこに見つけた恋次は、ぎょっとし、我を忘れてそれを奪い取った。
 写っているのは、明らかに合成したと思われる格好の面々。だが檜佐木の姿は見あたらなかった。
「あ、俺は自分のライブに全力で打ち込むから」
「はあ?」
「だからそっちは無理なの。いやー残念だけどな!」
「何だそれ! き、きったねえ……」
「きたねえって何だよ。大体『ハロウィン特別企画に協力して下さい』って向こうから言って来たんだぜ? ライブやるっきゃねえだろ?」
 ようやく俺の音楽活動も認められてきたぜ、と息巻く台詞が虚しく耳に響く。
「……これ、俺以外、男居なくないっすか?」
 改めてチラシを眺めて恋次が力なく呟くと
「おう! バンドに入れてくれって希望多かったぞ。だいたいこっち来てんじゃねーか?」と能天気な答えが返ってきた。
 いや絶対それ、コスを避けただけだろ、と心の中で毒づきながらも、良かったですね思い切り弾き語って下さいと言葉を残して、恋次はその場を後にした。落ち着け、落ち着け俺、と自分に必死で言い聞かせながら。


 一人になり、深呼吸をすると、先ず合成チラシに視線を落とす。そこにいる副隊長の姿をチェックした。

 一番隊……は参加されてもある意味困る。
 二番隊……資金源にはいいけど参加は無さそうだよな。
 三番隊……イズルは何でいねーんだ? 檜佐木さんに引っ張られたのか?
 女ばっかだなあ。四、八、十、十一、十二、十三……うおあ!!何でルキア!? しかも何だこのうさぎスタイルは!! 隊長が見たらその辺一面桜だらけだぞ!
 自分は目にしたことが無かったが、これは檜佐木から手に入れたものだ。当然チラシとして撒かれているものだろう。嫌な汗が頬を伝った。隊首会に向かった後姿が、氷点下の視線を湛えて振り向くような気がした。
 次の瞬間、恋次は瞬歩で走り出す。目指すのは当然十番隊舎だ。

「乱菊さん!これ、ちょっとヤバイっすよ」
「んーそーお?」
 主のいない隊首室では、上司の勤務チェックから解放された副官が、応接用のソファに寝そべり寛いでいた。恋次が来る事も想定済みだったのか、さほど驚く様子も無く、飛び込んできた男の話を受けて言葉を続ける。
「こんな合成写真、うちの隊長が見たら」
「合成じゃないわよ?」
「え?」
「これ、この前海に行った時のよ? さすがに今時分水着じゃ変だから、もこもこ被せてあるけどね」
 なんだって?
 目の前が暗くなる。首の挿げ替えだと思って見ていたのに。絶対、絶対に駄目だ!
「ま、ある意味、合成っちゃあ合成だけど」
「……」
 恋次から湧き上がる黒いオーラに気付いたのか、乱菊の口調が幾分柔らかくなった。
「じゃあさ、これまだ本格的に配る前だから、差し替えるわ、ね?」
「てか、こういうのは止めてくれませんか」
「そうねえ……]
 目線が急に恋次を捉えた。好奇に満ちた顔が、思いもよらない取引を持ち掛ける。
「当日の売り上げが良かったらあんたに原版あげるってのでどう?」

 原版? 水着写真の、原板?

「写真集用にこっそり撮っといたんだけど、あんたの働きによっては考えてみるわよ? 悪い話じゃないと思うけど……」
 確かに原版が無けりゃ、こんな風に弄りまわされることも無い。人目に触れるんじゃないかと気を揉むことも無い。
「それ……ほんとでしょうね」
「やあねえ、約束は守るわよ〜そんなに悪どくないって!」

 じゃ頑張って、と話を締められて、どうにも協力しなきゃいけない羽目に陥ったことに気付いた恋次は、自分の迂闊さに歯噛みした。だからと言って、対抗する手など全く思いつくものではない。
 実に恐ろしきは女性死神なり。(中でもごく一部か?)
 当日を思うと頭が痛かった。




――15日前――

「朽木さーん」
 隊舎の中庭で昼休みを過ごすルキアの名を呼び、虎徹清音が小走りに駆け寄ってきた。探したのよ、と隣に腰を下ろすと、積もった落ち葉がかさりと音を立てた。
 どうしました?と問い掛けるルキアに、息を整えながら清音は一枚のチラシを差し出した。
「あのさ、ハロウィン企画の話は聞いたことある?」
「あ、はい、何だか色々な催しがあるようですね」
 派手な色に縁取られた、その企画の名前とあおり文句を眺めながらルキアは答えた。
「うん、それで、急なんだけど……朽木さんに、これお願い出来ないかなあ?」
「え?」
 面白そうなイベント、とは言ってもあくまで自分は横から眺める立場の身で。
 参加という考えの全く無かったルキアはとっさに返答に詰まった。
「でも、これ、ここに、上位席官とありますけど……」
「最初は私が参加予定だったんだけどね」
 清音の顔に苦笑が浮かんだ。
「浮竹隊長が、この『お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ』って一言にものすごく反応しちゃって、配る気満々なのよ」
 分かるでしょ? と言われ、妙に張り切る浮竹の様子がルキアの脳裏に鮮やかに浮かび上がる。
 普段でさえ、自分や日番谷隊長用の小袋を懐に忍ばせているのだ。こんな名目があれば、力を入れるのも当然と言えた。
「で、そのお手伝いって頼まれたら断れなくってさあ。だって、考えてもみて? あんなテンションで配ったら、ぜぇーったい途中で倒れるから!」
 もう心配で心配で、と言いながらもその表情はどこか嬉しそうだ。浮竹に必要とされれば当然か、とルキアは内心微笑みながら頷く。
「仙太郎一人に任せるのも癪だし、お願い!」
 清音の口調が懇願に変わる。それを強く拒む理由がルキアには見付けられなかった。
「……私で、良いのですか?」
「何言ってんの! 朽木さんはそりゃ官位は無いけど、ほら、写真集が出るほどの人気者なんだから!もーう全然オッケーよ!?」
 ばしばしと肩を叩く清音の勢いに、はあ、とルキアの目が丸くなる。
「それにね、コスプレだからかわいい格好出来るし。先に言っとけばメイドだろうが、うさぎだろうがなんでも有りよ?」
「え」
 言われて思わず胸が高鳴る。
 大きく膨らんだ袖と、引き締まった腰、そしてまたふんわりと広がるスカートに、重ねられた真っ白なエプロン。
 或いはふわふわの耳と尻尾。これは以前にも身に着けたことがある。なんとも言えない触り心地のよさにうっとりしたものだ。
 そして同時に思い出すのは、その姿を困った顔で眺める紅い瞳。
 そうだ、もし参加すると言ったら、あの男はどんな顔をするだろう?
「いいよね?」
 思いを巡らせぼんやりするルキアを、清音は了承と受け取り、一人話を進める。
「じゃ、松本副隊長が衣装係をやってるから! 私、連絡入れとくね!」
「あ、あの」
 清音は勢い良く立ち上がり、現れた時と同じように小走りで去っていく。
 呼び止めようと伸ばしたルキアの手は、清音に届かず宙を掴んだ。黒の背中はみるみるうちに小さくなって、視界から姿を消した。


「……行った方が早そうだな」
 握り締めたチラシと、清音が向かった十番隊舎の方を交互に見て、ルキアはぽつりと独り言ちた。
 昼休みが終わるまでにはまだ間がある。どっちにしろ詳しい話を聞くには出向いた方が良いのだ。
 どうやら自分は、お祭りを楽しむ一介の客ではいられないようだと、ルキアの口からため息が零れた。




「恋次〜あんたミイラ男と吸血鬼どっちがいい?」

「え?」

「ミイラは包帯だけでイケるけど、吸血鬼はサイズ合わせなきゃね!」

「巻くだけって……ほんとそれだけっすか?」

「そうよ〜だってそういう設定なんだもん」

「全身グルグルの怪我人みたいな?」

「うんそう」

「吸血鬼を是非やりたいっすね!」

「わかった、んじゃ採寸するからね〜」


 って話をしたのは7日前の事だ。
 あん時乱菊さん何も言って無かったよなあ。

 分かってて黙ってたのかよ。

 ……憂鬱だ。



――当日――





「ちょっとーお、そんな顔してたらお客さん寄ってこないでしょ? はい、笑ってー?」
「大丈夫っす。今、檜佐木さん達御一行の相手たっぷりしましたし」
 ちょっと一息吐いただけ、と言う恋次の顔には疲労が色濃く浮かんでいた。普段からの目つきが一層鋭く、凶悪なものになっている。
 それはある意味吸血鬼としての迫力を醸し出してはいたが、万人向けサービスとはとても言えず、乱菊は密かに頭を抱えて唸った。

 海のものとも、山のものともと思われた特別企画だが、蓋を開けてみると訪れる客は男女問わず結構な人数だった。直前に大量配布したチラシが効果を発揮しているようで、予想以上の盛況に嬉しい悲鳴が上がる。
 そしてよくよく観察すると、その傾向が掴めた。
 男達は、恋次一人にコスプレを押し付けた格好になっていることに、少なからず罪悪感を持っているようで、入れ替わり立ち代りやって来ては何かしらを注文し、大仰な赤毛の伯爵を労った。
 その後、彼らは自分の義務は果たした、と言わんばかりにいそいそと移動を開始する。勿論、手にはしっかりと例のチラシを握り締めながらだ。
 その大方が豊満ボディを目当てに殺到と思いきや、入り口にあるなかなか融けない氷のかぼちゃに恐れを成してか、ある箇所に客が集中という事態は杞憂に終わった。
 喫茶の中では目当ての人物を目指す小集団があちこちに出来ていた。
 その中には真っ白うさぎのルキアを囲むグループも入っている。
 恋次にしてみれば、自分がルキアに他の男を案内するような状況は、全く面白いものではない。
 だが、帰れと追い払いたくても、客にそんなことを言えば乱菊のチェックが入る。そして一言『売り上げ』と言われたら、その後の不満は封印されたも同然だった。
 鬱積したものを抑えるように、恋次は普段とはかけ離れた優雅な物腰で、訪れる者達に言葉を掛けた。

「いらっしゃいませ。何なりと御用件をお申し付け下さいませ」


「なあ、おい……」
 何度目かの客の入れ替わり時間にルキアに話しかけても帰ってくるのは同じ言葉だ。
「清音殿、松本殿と約束したのだ。だからやる」
「でもあれはやんなくてもいいんじゃねーか!?」

 ルキアの衣装は一見膝丈のワンピースだが、どういう作りになっているのか、ウエスト辺りの紐を引っ張ると、やけに露出の多いうさぎに早代わりする代物だった。
「……あれはさぷらいずのおもてなしなのだ」
 そう言いながらもルキアの頬は僅かに赤く色付く。
 少しは言われることに覚えがあるのだろう。オヤジ的喜ばせ方すんなよ!と突っ込もうとした時、きゃー!と賑やかな歓声が突然恋次を包んだ。
「副隊長!? 似合ってますー」
「髪、編んでるんですねー」
 口々に褒め言葉を並べながら近付いてきたのは、見覚えのある六番隊の女性隊士達だ。書類を届けに訪れた際、案内をされたことがある、とルキアは過去の記憶を幾つか手繰り寄せた。
 彼女達は真っ直ぐに恋次に駆け寄り、言葉を交わし、その後、傍に立つルキアに初めて気付き軽く会釈をした。
当然と言えば当然なのだ。
 恋次は同じ隊の上司で、自分は別の隊の者。そして席官という訳でもない。どちらが彼女達にとって重要かなど、分かりきったことだ。
 それでも、今まで男達に囲まれた恋次を見てきたルキアにとって、それは心のざわめく光景だった。
 無意識に視線が彼女達を避ける。
「朽木ー指名入ったわよーぅ」
 乱菊の声に、恋次が自分を引き止めるのを知りつつも呼ばれた方へルキアは戻ろうとした。だがその腕を、大きな掌ががっしりと掴んで阻む。
「い……たいぞ、この莫迦力が!」
 思わず睨みつけるルキアの目に映るのは、不機嫌そうな紅い瞳。
 その口から出てきた言葉は、いつも聞き慣れた悪態とは正反対のものだった。
「……其方がそのような態度でしたら、此方にも考えがありますので」
「え……」
 口角を上げてニヤリと微笑む恋次からは、黒いオ瘴気が立ち上がるようだった。

 掴まれた腕はあっさりと解放され、恋次はくるりと振り向く。
 ルキアを見ることなく六番隊士達のところまで戻ると
「今日の私は副隊長ではありません。貴方達に御仕えする身ですので、何なりとお申し付け下さい」
と足元に傅いた。
 彼女らの驚きと喜びようはただ事ではなかった。
 会の趣旨は確かにそのような物と聞いていても、実際そうは行かないだろうと思っていたことが目の前で繰り広げられているのだ。
 どこでそんな接待を覚えた、と言いたくなるような物腰で、恋次は彼女達を席に導き用件を聞く。
 もちろんその間に穏やかな笑みを絶やさずに、柔らかな声で二、三言葉を交わす。内容は分からないが、その度に彼女達の頬が染まり笑みが零れるのを、ルキアは見つめていた。

 これがお前の言う『考えがある』ということなのか?
 私の目の前でわざわざすることなのか?
 どこの副隊長があんな腰の低い態度を取るっていうのだ?

 胸が締め付けられるようで息が苦しい。自分を抱え込むようにその場に蹲ったルキアは、こちらを向いた恋次の唇が何か言葉を形作っているのをぼんやりと眺めた。


 さ

 ぷ

 ら

 い

 ず

 そう呟くと、恋次の笑いが穏やかなものから黒いものへと早変わりする。

 そうか
 そんなにあの衣装が気に入らなかったのだな。
 だがあれが無いと、松本殿との約束の額までなんて到底届きはしない。
 それではこのイベントに参加した意味が無くなってしまう。

 呼ばれていたことも忘れ、ルキアは恋次の給仕をその場で只々眺めていた。
 あの姿を取り戻す筈だったのに
 どうして他人の世話をしている様子を私は見ているのだろう。
 一体どこで間違えた?

 そして突然耳に飛び込んできた、可愛らしい甘える声。




「じゃあ……せっかくだから今日の記念に一枚、良いですか?」




「写真はダメだ!」



「写真はダメだ!」
 その声の大きさに女子隊員ははっと顔を上げ、恋次は眉を寄せた。
「それでは頑張ってる意味が無い!」
「何だそれ?」
 言われて今度はルキアがはっと目を逸らす。しまったと言う顔なのは明白だ。
「い、いや……」
「今の言葉はどういう意味ですか?」
 恋次の丁寧な口調と、笑みを浮かべた顔にルキアは言葉を失う。
 暫く無言の時が続くと
「分かりました」と恋次は大きなため息を吐いた。
「ここでは言い辛いのですね? それではちょっと場所を変えましょうか」