『誘ってるのか?』


 息が出来なかった。
 普段は胸の奥底に眠らせている欲がひりひりと刺激される。
 花が花弁を綻ばせるような甘い薫りが思考を奪う。
 一緒にいても、己とは明らかに違う柔らかな、たおやかなルキアの薫りは、此処には似つかわしくないくらいに瑞々しく辺り一面に漂う。
 いや、そう感じているのは自分だけかもしれない。
 纏まらない頭でぼんやりと考える。
 躊躇うこと無く、この腕にきつく抱きしめて、細い躯の甘さと柔らかさを存分に味わえたなら。

 けれど

 お前のことだから
「何をする!」
「苦しいではないか!」
 で終わるのだろうか。
 それでも拘束を緩めなかったら、その顔に浮かぶのは驚愕か 困惑か 怯怖か。
 そんなものは見たくない。
 だから、暴れ狂う欲を己で何とか宥め賺す。



 それ以上近付くな
 甘い薫りで誘うな
 柔肌を寄せるな。

 お前が温もりを求めると
 俺はいい様に考えてしまう。
 違うのに
 分かっているのに




 どうして笑って身を寄せてくる?
 誘ってるのか?