「なんだ?」
「……なんでもない」
そうか? と軽く言うと
自分の組に戻るためその躯は翻り、鮮やかな紅が視界に広がる。
また袂を掴んでしまいそうな右手を、左手で抑え「じゃあ」と一言
あと少し
共に居たいと思っているのは、私だけなのだろうか。
「……なんでもない」
揺れた視線に背中を向けた。
お前を見ていると止まらない。
この手を、伸ばして、掴んで抱きしめてしまいそうになる。
お前の求める温もりと
俺の中の願望は
似た顔をしていながら
まるで別のものだと言うのに。
二人とも臆病で
二人とも優しくて
触れることさえ出来やしない
境界線は細くしなやか
越える鍵は
互いの胸の中