『つま先』
「……何の真似だ?」
「お姫様ごっこ。気に入らねえ?」
椅子から呆れた視線が返ってきた。
「副隊長殿がこんな格好をしていいのか?」
眉が僅かに動く。
「いいんだよ、誰も見てねえし」
「私は知らんぞ。お前が勝手にしてることだからな」跪く俺に容赦ない言葉が降ってくる。
「ああ、気にすんな。俺が好きでやってんだ」
目の前の小さな足に口付けると息を呑む音が聞こえた。知らんと言った手前、我慢しているその態度が面白くて、こっちもわざと気付かない振りをする。
「お姫様のつま先、冷たいですね」
「……じゃあ、温めろ」
「どのように致しましょうか?」
「……何でも」
「では冷え、肩こり、不妊に効く秘湯にひとっ走りってのは?」
「ば、莫迦者! そんなっ……」真っ赤になって口をぱくぱくさせている。
「駄目か?」
もう冷たくないつま先に触れながら
「じゃあ手近なとこでうちの秘湯に」と誘いをかけてみた。