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 恋次の様子が変だ。
 ぼうっとしてるのかと思ったら、ふと気がつくと鋭い眼で此方を見ていたり、何だ、と訊いても返事が無かったり。 みんな大勢でいる時はそうでもないが、二、三人になると明らかに様子が変わってくる。
 その眼に耐えられず、自然問う声が荒ぶった。
「私に言いたいことでもあるのか?」
「……ねえよそんなもん」
 答える顔は正面を見ずに、視線が合うのを避けている。 それは話すつもりは無いという明らかな拒絶だ。 仕方無しにルキアもそれ以上訊く事はせず口を閉ざした。 恋次がこんな態度を取る理由が分からない。 怒らせるようなことは無かった。 それに、もしそんなことがあったとすれば、恋次は胸に溜め込むようなことはしない。 はっきりと言葉にして解決方を探るはずだ。今まではそうして来たのだ。
 なのに何故。
 何かあるなら言ってくれればいいのに――不満と不安が胸にぽつんと染みを作り、内部をじわりと侵食し始める。
 こんな事は無かった。無かったけれど、少しずつ変わっていくのだろうか。
 二人の体格差が目に見えて明らかになったように。
 外側だけではなく、中身も決定的に違う徴を、 この躯が迎えたように。


 ルキアの顔をまともに見ることが出来ない。原因はこの前の事だと分かり切っている。 だが打ち明けるわけには行かなかった。 恋次自身でさえもまだ折り合いを付けられないその事を、どうルキアに告げられるというのか。
 持て余した感情は、些細な事で波立って揺らめいた。 時と場所を選ばず再生されるその場面は、苦痛と快楽が入り混じりながら自身を襲う。 不安定な状態のままルキアの傍にいることが何より恐ろしかった。
 自分が苦しいのは仕方が無い。でもその苦しさのあまり回りを見失って、護る筈のものを引き裂いてしまったら――
 足元には、至るところに暗闇がぽっかりと口を開けて待ち構えていた。


 それは不意に襲ってくる。
 ルキアの躯がやけに華奢で、細くて、はかなげで、自分の力では握りつぶしてしまいそうで。
 唇が紅く艶めいて、自分を呼ぶ声で背筋にぞくりとするものが走って。

 違うのに、違うのに。


 誘

 わ

 れ

 る

 近づくな
 この目は
 この耳は
 この口は
 この頭は

 きっとおかしい


 さっきから煩いんだ
 声がするんだ
 お前は病気なんだと

 目の前に薬があるから
 喰らってしまえ と


 俺の言う事に耳を貸すな
 信用するな
 そんな顔をするな


 でないと
 引き裂いちまう