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着替え一式を受け取り、商店から直接学校へ向かった。躯は回復していたので、通常の行動に差し支えは無かった。傷も全て消えてしまったし昨日と何ら変わりはない。いつものように挨拶を交わして教室に向かい、いつもの顔ぶれで何気ない会話をする。
違うと言えば一護の態度くらいだろうか。多分それはよくよく見なければ分からない変化だった。
私は私に向けられる視線の中に沢山のものが絡み合っているのを感じた。それは一瞬のうちに、次々と色を変えて表れては消えてゆく。当人もおそらく気づいていないだろう。
「もう大丈夫…なのか?」
「ああ、だから安心しろ。一晩かけて治療したから心配ない。」
一護の方がだるそうだと思った。
授業中は机に突っ伏しているし、昼休みになってもあまり動かない。元々少ない口数が更に減って、はた目には酷く機嫌が悪いようにしか見えなかった。
「…門限破りだって、親父にどつかれた。電話入れたのによ。」間に合わねーよあんなの、と一護はぼやく。
「…すまなかった。」
まわりを伺いながら、ぼそぼそと会話した。
「あ? いやそりゃ別にいーんだ。大体うちの門限早すぎるし。」
ただなあ と一護は言葉を続けた。「罰として 今晩家族で飯食いに出掛けっけど、お前は留守番で外出禁止だと。だから今晩はカップ麺だからな。」
「かっぷめん…とは何だ?」
「ええっ!朽木さんてカップ麺知らないのー?やっぱりお嬢様なんだ!」
脇からの浅野のツッコミ発言で周りが騒がしくなったところで昼休み終了のチャイムが鳴った。
それぞれが自分の席に戻る為に立ち上がり歩きだした。その中に、自分の席に座っていたはずの一護が加わっていたので、「どうした?」と尋ねた。
「……わり、眠いし、何か調子イマイチだから帰るわ。」
司令が出たら呼んでくれ、と一護は私だけに聞こえる大きさで言って教室を出ていった。
私は浦原の言葉を思い出していた。
「面倒か…」
あれから一護とまともに話をしていなかった。商店から直接来たのだから当然だ。
しかたあるまい。いくら死神代行と言っても、奴はまだ15年しか生きていない。不安定で当たり前なのだ。しかも自分の意志とは無関係に私が巻き込んだ。何とかせねばならないのは明らかだった。
「全ては我が身が招いた事…だな。」
放課後真っ直ぐ浦原のところに向かった。
「おや、制服のサイズでも違いましたか?」
「頼みがある。」
うちは萬屋ですから何なりと、と浦原は笑った。
「・・・・・・今から明日の朝まで司令を転送する。虚が出たら魂葬してもらいたい。」
表情を変えずに浦原は答えた。
「割り増しになりますよ?」
「分かっている。今回だけだ。」
「…了解です。死神代行の代行承りました。」
真面目くさった言い回しと深く下げた頭がハマり過ぎて、笑うしかなかった。
「それと確認だが…私に昨日の跡は残っているか?」
「傷は全部消しましたよ。」
「・・・・・・お前がつけた方だ。」
「それはバッチリです。」
「分かった。 嫌な奴だな、お前は。」
「あら、ヒドイですねえ。」
「感謝はしているぞ?」
伝令神機を取出し、ボタンを押した。数回の電子音の後―――転送を開始します――― とメッセージが流れた。
「今から頼む。」
そう告げて商店を後にした。
070728