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黒崎の家に着いたのは夕方だった。かなり日が落ちて薄暗いのに、灯りが灯っていなかった。物の判別は出来ても表情が分かる明るさではない。自分は今どんな顔をしているのだろう?夕闇に紛れていられるなら気は楽だった。
.開け放たれた窓から部屋に入った。ドアを開け、下の様子を伺っても、他の者の気配は無かった。一護が言ってたように皆出掛けたようだ。いつも賑やかな家が静まりかえっていた。僅かな動きや音がやけに目立った。
だからだろうか、ドアを閉める音が耳に響いた。そして、布団の布擦れの音も。

「…遊子ー?もう行くのか?」一護の寝ぼけた声が聞こえた。よほど深く寝入っていたのか、私に気付いていないようだ。
「…誰もいないぞ。」

「あぁ…? ルキア?今何時だ?」布団の塊から一護が顔を上げた。
「もうすぐ6時だ。」
「なにー!あいつらホントに放置してきやがったのかよ!」
「貴様いつから寝てたんだ?」
「…家着いてすぐ。」
「気を遣ってくれたのではないか?」
「ん…まあ、だりぃから休むとは言ったけどよ。」
こんな暗くなるまで、と口の中で呟く。
「で何で暗いままなんだよ。 灯り点けたらいいじゃねーか。」

今の顔は見られたくない。平静でいられる自信がなかった。

「私が帰った時からこうだったぞ。誰もいないのだから構わないだろう?」
「俺がいるってーの。」
「身動きせずに眠り呆けていた奴に言われてもなあ。」
「しゃーねーだろ、昨日ほとんど寝てねえんだから」
「寝てない?いつもよりは遅かったが、寝れない時間ではなかったろう?」
一瞬の間があった。

「時間じゃなくて…あんな事あったら寝れるかよ」

「私のことなら気にするな。傷も消えたぞ。」
ほら、と腕を上げたが暗がりでは意味が無かった。
やっぱ見えねー、と一護が側のデスクライトを点けた。部屋全体を照らす訳ではなく、その一角だけが青白く光った。暗がりに慣れた目に染みた。     きっかけに、なる。

一護の右側にぽすりと座って左腕を差し出した。
「大丈夫だろう?」

「スゲエな、この辺までヤラれてたのに…
 跡もねえ」
指がそっと傷のあった箇所に触れた。今までこんなことがあっただろうか。

「…貴様あの時虚に向かっていったろう」
指がびくりと揺れたのが分かった。

「何を見た?」
一護の目は私を見ない。触れた手がじんわり汗ばんで熱を伝えてきた。
―――もう少し―――


「…いち、ご」
ゆっくり名前を呼ぶと、その手に力が入り、右腕も同時に掴まれた。一瞬で、私の躯は組み敷かれ一護のベッドに横たわる格好になっていた。
「…お前が。」
「――私が?」
言った言葉をゆっくり返す。私は真っ直ぐ一護を見つめ続けた。
「いたんだよ…あん時と同じ顔で」
「あの時とは?」
「虚が出る前だよ!!」
「…今はどうだ?」
「同じだ…。」

同じか。
―――よかった―――

「同じなら、どうする?」



  
070804