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欲望だけの視線なら―― 迷わずこの身をくれてやれたのに
一護の理性はどこかへ消し飛んでしまったらしい。
噛み付くように唇を貪られた。ただ欲をぶつけてくる乱暴な口付けだった。その勢いのまま舌が入ってきて私のものと絡み合う。粘膜のぬめりと柔らかさに似合わない強引さに目眩がした。
「う…んっ」
息がつけなかったが、押さえつけられた躯と塞がれた唇では訴えようがない。身を捩っても、大概はのしかかる者を煽るだけだ。それはよく分かっていた。
だから私は抵抗しないことにしていたのだが、まともに欲をぶつけられるとさすがに持て余す。ぎりぎりまで口腔を弄られようやく唇が離れた。互いの唾液が混ざって名残惜しげに糸を引いた。
「がっつくな、たわけが。」
「…うるせぇよ」
シーツに張り付けになった躯は相変わらず身動きがとれない。やはり私は喰われる側だとつくづく感じた。
一護が私を喰らう。首筋に歯を立て、舐め上げ、吸い付く。喰らうなら、迷わず躊躇わず喰らって欲しい。
お前が俗な男ならよかったのに。死神代行などで無かったなら。それなら迷うことなくこの身を差し出せた。自分勝手な理屈なのは分かっている。巻き込んだのは私なのだ。それでも――――
「っ…! は…ぁっ」
ブラウスのボタンを外した手が下着を押し上げた。やわやわと膨らみを揉みしだかれると甘い痺れが走った。わざと避けられた先端が張り詰めていくのが分かる。
「…何かその声、すげーくる。」
声が下がると感じたとたんに柔らかく熱の籠もった刺激が頂を包んだ。
「ぅあっ…! あ、はぁん…」
甘い嬌声は一護を煽り、自分もそれに煽られる。
摘み、捏ねる。舌で転がす、軽く歯を立てる。その度に電流のような快感が背筋を走った。
快感はそのまま下半身に集まり、潤いだす。滴るのが自分でも感じられた。
そのまま、欲情のまま突き進んでくれ。それなら私も何も言わず流されよう。
他に余計なものはいらない。
一護、お前が自分の視線の中の様々な色に気づかないうちに。
そして私は自分に釘を刺さねばならない。死神である自分、力を失って取り戻せない自分。今一時の平穏にまどろんでいる場合ではない。この時間は、そう長く続くものではないのだから。
「…キア、ルキア」
我に返ると戸惑う顔が目に映った。熱を幾分失った顔だ。
「嫌なら…しねえ 悪かった。」
失態だ、表情を読まれた。憂いごとのせいだろう。
偽りの躯は欲で繋げないと、後が無くなる。
本当に―――お前が俗な男だったら、どんなに楽だったろう。自分から仕掛けた事なのに、莫迦だなと笑いがこみあげた。釘を刺すのは、快楽に溺れた後でいいのだ。
「嫌じゃ…ない… 分からないか?」躊躇いがちになった手を取り、その印へとゆっくり導いた。
「・・・・・・すっげ 熱い・・・」
070805