18
「今から…?」
「ああ、今からだ」
予後を見るのに3日は来てくれと言われた。
言葉は驚くほど平静に口をついて出てきた。
「治療…ほんとにそうなのか?」
「義骸の調整も一緒に行うらしい。
行くしかないだろう?」
「それに…
風呂を借りたい。ここでは無理だからな。
…体中どろどろだ。」
私が笑うのと、腕を掴まれ壁に押し付けられるのは、ほぼ同時だった。背中が軋んだ。歯がぶつかり唇が切れたかと思う勢いだった。
「いち、ご、止めろ!」頭を振ってようやく一言だけを絞りだしたが、離れた口はそのまま私の首筋を噛んだ。熱い痛みが走る。
「…行くなよ!」顔を付けたけたまま一護は低く言った。
「無理だ!貴様が跡をつけても治療にはならん!」
密着した身体がびくりと震え、私を拘束していた力が緩んだ。
壁との間から身を捩って抜け出した。
目を合わせないまま
「…行ってくる」一言だけ残して、私は窓から部屋を出た。
時刻は八時半を回っていた。そろそろ家族の帰宅が近い頃だ。派手なやり取りが長引かなくて良かった、とぼんやり思った。
浦原のところへ向かう間ひどく疲れを感じた。理由は分かっている。他人を思うように動かすのは骨の折れる仕事だ。
策士の真似は似合わない、後に残るのは苦い思いだけだ。
絡まりもつれた糸はいっそ引き千切るしかないのか。
この身を裂く勇気もない私が―――?
足取りは気分と共に重くなり、気がつくと、私は呆然と夜道に立ち尽くしているだけだった。
その時の私は、自分の感情を持て余し、手一杯になった愚かな死神だった。
だから気付くのが遅れた。
―――この霊圧
道路一本向こうの虚と、その前に立つ―――
「―――あら朽木サン。こんばんは♪」
「浦原…」
「子守りは済んだんですか?」
浦原は躯の向きを変えて私に話しかける。まるで、そこに虚などいないかのように。
いや、奴にとっては多分"いない"のだ。それ程、この男の能力は底が見えないものだった。
虚は、動きを制していた浦原の霊圧が私の方を向いたとたん、獣の叫びを上げながら、弾けるようにこちらへと飛び跳ねた。
だが、その姿は次の瞬間あっけなく崩れ出した。
浦原は僅かに携えた斬魄刀を揺らめかせただけだ。私にはそうとしか見えなかった。
やはりこの男は得体が知れない…
知らずに躯に力が入った。
「怖い顔しないでくださいよ〜
せっかくきちんと代行してるんですよ?」
「そうだな… すまない。」
「で、どうです?」
「・・・・・・どうだろうな」
「うちにきますか?
これも治しますよ」 首筋の赤を撫でられた。
「ああ…」
070901