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「朽木サン、何怒ってるんスか?」
「…どうして貴様がここにいる。」
「虚倒して一仕事終わったんですよ?汗流したっていいと思いますけど〜」
「…私は風呂を借りるとは言ったが、貴様と入るつもりは無かったぞ?」
「ま、そこは家主と言うことでいいじゃないスか♪」
軽い口調が天井に反響する。呆れて返す言葉が見つからなかった。
「後で義骸のメンテナンスもあるし、恥ずかしがる柄でもないでしょう」
「…どうせならここで済ませてくれないか。あの感触は冷たくて好きじゃない。」
「無茶言いますね。あれでも微妙な作業なんですけど。」
今度は浦原の方が呆れていた。
「関節の連結やら、神経伝達やらと器材を当てられるのは、正直うんざりだ…」
背を向け、躯の向きを変えると、乳白色の湯面からばしゃと飛沫が跳ねた。
「しないともっとキツくなりますよ?」
「……何故霊力が戻らないんだ」
小さな声で呟いた。
湯気が揺れて、温かい流れが背中に当たった。
「さあ…て」
「御要望通りここでやっちゃいますか〜」
手首を掴んだ浦原がにやりと笑った。
「貴様が言うと…素直に聞けんな。」
「触診だけにしときますよ。」 耳元でぼそりと言われた。
「…疲れてるでしょ?」
振り向くと視線がぶつかる。
「そんな人相手にがっつきませんから。」
「…だな」
「勿論」
ごつごつした指が、それとは対照的に細やかな動きで『触診』を開始した。
軽い圧迫で、皮膚の下の様子を伺う、その手付きは見紛うことなく"治療"だった。
「これだと大まかにしか分かりませんからねぇ。違和感あったら言って下さい。」
違和感なんて有り過ぎる。
器に振り回されて、私はどうなってしまったのか。
浦原は義骸のせいではないと言ったが、多分それは間違いだ。この入れ物は明らかに"違う"のだ。
だから
指先の刺激も容易く受け入れる。息使いに熱くなる。視線の強さに負ける。
分かっているのに、頼るべきものはこれしか無い。
触れる指先が場所を変え、背中から下がった時、この躯はびくりと跳ねた。
がっつかないと言う男に、そんなものは見せたくなかったのに。
「変ですか?」
「いや…何でもない。」
纏っているのは嘘ばかり。そのうちそれさえも剥がれ落ちる。
「う、ら原… もう…いい…」
「何です?」
「あつ…い… のぼせる…」
「そうですね」軽く笑って男は私のくたりとした躯を抱き抱えた。
「続きは外でしましょうか」
どうあってもこの男のペースだな、と腕の中で思った。
070908