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―遠い昔の契約だ―
男のくせに睫毛が長いなと思った。私を押さえる力は乱暴だったが、唇は躊躇を感じる緩やかさで重ねられた。
お前が目を閉じるんだ…
こんなことを考えられるほど冷静な自分が笑えた。私はいつからこんな風になってしまったろう。心は平坦なまま、躯だけが行為に反応する。
そう、一護の熱は私にも伝わっていた。それは先程、屋上で火種を貰ったものだ。飛び散った火花は燻り続けていたが、こやつはそれを焚き付けたのだ。
触れられた箇所に熱が移り、どんどん侵食されていく。もう逆らうのは止めよう。
私は私の為に、躯に心を合わせることにした。
力を抜いたのが分かったのか、一護がその動きを止めた。僅かに離れ薄目を開けたので、そのまま視線を絡ませた。
「手 痛い…」
短く言って、私から食むような口付けをした。
「力任せでは女の躯は開かんぞ。」
「…そりゃあアドバイスどうも」
態度が変わった私に一護は戸惑ったようだ。解放された両手を背中に回したら
「お前…どうなってんだ?」
と聞かれた。
どうもこうもない。
私の躯は私の思い通りにはならない。
躯は勝手に独り歩きをする。その事に気づいてから私は抵抗する事を止めにした。
自分の躯なのに主導権は他人のものだ。初めはひどい苦痛だった。
だが、だからこそ私は私の心の主導権だけは手放してはいけないんだと解った。
私は私の契約を決して忘れない。
躯などいくらでもくれてやる。私の躯を貪るのがお前なら、心を貪るのは
あの「紅」以外あり得ないのだから。
070708