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「ルキア!どうなってんだこれ!くっそ…体中しびれてんじゃねーか!」
正気を取り戻した一護の声が聞こえるのと、(喰イタイ…)というおぞましい気配に包まれるのはほぼ同時だった。 次の瞬間、先程の閃光が私を襲った。
反射的に両腕で顔の前を覆ったが、強い光は目を閉じていても瞼の裏に侵入してきた。 だが、私は真におぞましいものが光と共に侵入してきた事には、その時気づいていなかった。

「うあっ?」



足元がぐらついた。
視界は奪われた筈なのに、目の前に見えるもの、あり得ないその姿に、驚愕し目を見開いたまま動けなかった。その時の私の顔は、おそらく愛しさや悲しさや嬉しさが入り交じった複雑な表情だっただろう。

「どうしたルキア?」



「・・・・・・れん、じ」
その名を口にするだけで焼けつくような想いが胸を走った。



「んなとこにいねーで、こいよ」

「なんで…こんな…」
小さな私が寄り添っていた紅。私を捕らえて放さない紅。お前のその目で見られると、私はただの小娘になってしまう。

「なぁ ルキア」


一瞬我を忘れそうになった時、鋭い痛みが左腕を襲った。ざっくりと開いた傷口からはぼたぼたと血が溢れた。
「ルキアぁ!」一護の叫び声が遠くから聞こえた。
そうだ、しっかりしろ。 ここは現世 今は虚と戦っている。
(喰イタイ…)その気配に身震いして、同時に激しい怒りが沸き上がる。

その姿をとるな
その声で語るな
それはあれの
あれだけのものだ
そんなものを私に見せるな!

頭の芯が熱く滾った。

「君臨者よ!血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ!」
血が滴るが構わず手をかざし詠唱をした。「真理と節制 罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ!」
威力がないのは解っていた。だが撃たずにはいられなかった。これ以上心を掻き乱されるのも、穢されるのも御免だった。


「破道の三十三! 蒼火墜!」
「ルキ…」私を呼ぶ幻が歪んで消滅すると共に、獣じみた咆哮が辺りに響き渡った。驚いたことに、その一撃は確かに虚に傷を負わせていた。
相手を惑わす能力の発動は完全に停止した。今ならやれる。
「一護!」
「おう!」言うより早く斬魄刀が振り下ろされ、面が砕け散った。
最後の叫びを上げながら虚は崩壊していった。


終わりか…そう思ったとたん膝から力が抜けた。情けないことに立っていられなかった。一護に抱き止められなかったらそのまま地面に突っ伏すところだった。
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫、と言いたいところだが生憎だな。 ちょっとこれは深過ぎた。浦原のところで治して貰わねばならん。」

「出血もすげえけど…お前、あの火の玉」
「ん? あ…あ 撃てるはずのない鬼道を無理矢理撃ったからな。すまないが動けそうにない。」
「何無茶してんだよ…。」

いつもなら悪態をつく顔が歪んでいた。それだけ今の私の様子はひどいものなんだなと思った。
実際躯がだるくて、気を抜くと意識を失いそうだった。

「すまない…浦原のところまで、頼む。」
そう言うのが精一杯だった。



  
070716